魔術師の物語

何年か前に爆笑問題カーボーイで紹介されてたような気がする。
ブックオフで購入。よんひゃくえん。

サンフランシスコのいかがわしい裏通り、一人の男娼がバラバラになって発見された。
写真家のケイは次の自分の写真集のテーマとして通りの人々を撮影しており、被害者とはとくに親しかった。
彼女は被害者ティムの生と死を作品の主題とすることに決め、彼の足取りをたどる。
見つかった胴体にはタトゥーが施されており、それは十数年前に起こった連続殺人事件(T事件)に酷似していた。
そしてそれはケイの父親が警察官の出世コースを外れる原因となった事件でもあった。
ケイはティムのメールボックスの中に彼の叔父からの手紙を見つける。
魔術師を名乗る叔父から聞かされたのは、ティムの数奇な過去、恐ろしげなインド流のマジック、双子の姉の存在。
刀でバラバラにされた子供が呪文とともに復活するマジックと今回の事件、そしてT事件の関係は??
そして姉のアリアンは今どこにいるのか?
関係する人々の姿をポートレートに切り出しながら、ケイは事件の全貌を追う。

文章は読みやすくて、可笑しくて、うまい。
主人公ケイが行動的なので、舞台がサンフランシスコ中を駆け回るのも楽しい。裏通り、パン屋、ナイトクラブ、公園、金持ちの豪邸、超高級ホテル、夜の遊園地、そして遠くはメキシコ、サン・ミゲル・デ・アジェンデ
主人公は色盲の写真家で、色が全く見えない。てことを上のあらすじには書かなかったな。それをものともせずケイは活発に動く。警察官になりたかったこともあるそうだ。色が見えないことは直接事件にかかわってこないのだが、それもまた良い。強い光ですぐ視界が飽和してしまうのが弱点になっている。

以下、ちょっとネタばれ。
事件と関わる人をおおまかにグループ分けすると3つ。
A)今回のティム殺害。ティムと犯人の○○○○。○○○○○○。ノブと手下たち。そして○○○○の家族が関わってくる。
B)T事件。20年近く前の連続殺人事件で、5人が死に、6人目は警官が駆け付けたため即死ではなかったが、まもなく死亡。現場に残されていたはずの決定的な証拠は、あろうことか紛失! 警官が5人もいたのに! 激怒する警視。5人の警官はそれぞれの形で職を追われることになる。ケイの父親もその一人で、今は引退してパン屋を開いている。
C)ティムとアリアンの関係。魔術師ジョフロワを加えてもよいかもしれない。そしてもちろんザマンサ・マジック。

この3つは関連がありそうに見えて、実は繋がりはごくわずか。
はたから見れば、事件はAのみ。記憶力のよい人ならBとの類似性を思い出すかもしれない。が、T事件の情報はあまり公表されていなかった。Cについては誰が知るだろう?
しかし色彩のないグレースケールの世界で生きるケイにとっては、自分の目で見た形がすべて。事件の枠にとらわれず、自分が今まで見てきたものを写真にしてレイアウトする。そこから真実を見いだそうとする。自分の足で歩いて目で見てABCすべてに関わりを持ったケイだけにしか見ることのできない真実がある。