ターミナル・エクスペリメント

医学博士のホブスンは学生時代に湧いた疑問から、人が死ぬ瞬間の定義に関心を持つ。
精密な測定機械をつくって実験を重ねるうち、彼は決定的な発見をする。
その発見をさらに深めるため、自らをモルモットとして一つの実験を行う。
しかし実験は暴走をはじめ、彼の周りの人々を巻き込む恐ろしい事件へと発生する。

と書くと、いまいち面白そうじゃない。
メインの話を抜き出すとこんな感じになるのだが、この話自体はとくに目新しいこともなく(作品は95年)、ありきたりとすら言えるものだ。
しかし、読んでみればおそらく異なった印象を受けると思う。
実際の内容はもっと多角的で、メインストーリーを取り巻くたくさんのエピソードが描かれている。
登場人物も主人公夫妻とその親友、妻の同僚たち、女刑事に妻の肉親、主人公の昔の恋人や、しまいには殺し屋すら出てくる宮部みゆきっぷり。
宮部みゆきの本は理由しか呼んだことがなく、登場人物が多い印象が強いだけですあしからず)
SF的ネタ(言い忘れてたが本作はSF)も、メインの人工知能(というか“コピー”)のほかにも、人工生命や臓器移植、延命治療やコンピュータネタなど幅広い。
そもそもこれはSFなのか?と思うくらい、愛憎劇であったり推理小説であったりホラーであったりする。三人のホブスンとの対話は哲学的ですらある。本物のホブスンが分身のホブスンに夫婦関係の悩みを相談するなんて、SF作家にも読者にもなかなか思いつかない発想じゃないか?
アイディア勝負のSFではないが、細かな刺激がちりばめられた上品な小説だと思った。