あなたの人生の物語

1990年から2002年までの間に8本の作品しか公表していないテッド・チャンの全作品集。
(ちなみにWikipediaによると現在までにもう2本書かれている。それでも10本。。)
うーん。SF?・・・うーん。SF。
読み終わったのが一月以上前なので、思い出しがてら短文感想書いてみる。

バビロンの塔・・・高くそびえる塔を作り天に穴をうがつという荒唐無稽な話を、さもあるように語る。あまりにも塔が高すぎるため塔の途中に住みだす人がいて、その人らにとっては天も地も遠くの絶壁で、塔はそのあいだに張られた綱のよう、というのが面白い。
理解・・・頭脳バトル。いまいちわからん。
ゼロで割る・・・ゼロで割ることが許されるならば、どんな等式でも正しくなってしまう。そんな系を発見して自分の根底にあった数学概念が打ち砕かれてしまった天才数学者とそれを見守る一般人。一般人は友人として恋人として数学者を思いやり、慰め、いたわり、理解さえすることができる。しかし究極的には、数学者がなにをそんなに悩んでいるのか一般人には理解できていない。安易に理解することはまるでゼロで割るのと同じように、どんな相手をも理解するような程度でしかなく、それはきっと真理を求める数学者にとって耐え難いことなのだろうと思い、別れを選ぶ、という繊細すぎる話。

# ここまで読んで、「これはSFか?」と思う。少なくとも近未来や宇宙の描写に重点を置くようなSFではない。

あなたの人生の物語・・・文体が変である。しかしこれには理由があり、読めばわかる。たぶん想像を絶する。我々が語るときは普通、時系列に過去から未来へと語る。だがそれが唯一の方法なのだろうか? 全て頭に収めていて、語るべきところから語る、そんなスタイルもありえるのではないか? はい、書いてみました。的な。
七十二文字・・・世界一まわりくどい遺伝生物学の説明。精子の中に人間のミニチュアが入っているという説(というか事実;)から始めて、それがどのような問題があるかという話になって、それを克服するために終いには遺伝子のようなものが導入されるという、お茶目な話。

# 「王様はロバ」にあったネタで、掃除機には当初AIがついていたが、いろいろあって最終的に今の吸い込む力が強いだけの掃除機に落ち着いた、というのを思い出した。

人類科学の歴史・・・意識伝達の発達で進化した超人類にあっというまに置いてけぼりを食った人類が、仕方ないから超人類の研究をしてあわよくばおこぼれに預かろう、という話。

# 「王様はロバ」にあったネタで、最高の科学者が最高知性のコンピュータを作ってノーベル賞を取ったら、次の日に最高知性コンピュータがもっと優れたコンピュータを開発して科学者涙目、というのを思い出した。「テッド・チャンなにわ小吉」説オレの中に浮上。

地獄とは神の不在なり・・・突如現れては周囲に奇跡や災厄をもたらす“天使”という現象に惑わされまくる人々の姿。この本の中で一番わかりやすく、面白いのではないかと思ってる。昔読んだ「徹底的に無関心な神の教会」というのを思い出した。ていうかこれSFじゃないだろう?

顔の美醜について・・・顔の美醜が認識できなくなる手術が実現したらどうなるか、ありとあらゆる方面から想像する。作り話ではあるけども、いかにもありそうな話で、顔の美醜をエコなどに取り替えても成立しそうな・・・。

とにかく想像力の強い作家だと思う。