白熱光

1年半前に読み始めて、3か月前に読み終えたのだが、どうも感想文を書こうという気にならなかった。
しかし最近、新刊のゼンデギを読み始めたことで、書き始める糸口を見つけた気がするので、簡単に書いていきたい。

白熱光はイーガンの2008年の長編小説。ウィキペディアによれば、6年ぶりの長編。
読み終えて心の整理がつくまでしばらくかかってしまったが、率直に言おう。

おもしろくなかった。

簡単にストーリーを説明すると、
・未来、宇宙の文明は融合世界(アマルガム)という宇宙規模の連合に属していた。しかし中にはそれに属さずに、かたくなに無干渉を通す地域もあり、孤高世界と呼ばれていた。孤高世界は何も発信しない。しかし孤高世界に侵入した物体は必ず、180度向きを変えて送り返された。
・融合世界のラケシュは未開地域の冒険に憧れていたが、彼のもとを訪れた使者から、孤高世界を通って飛来した未知のDNAを含む隕石について聞き、友人のパランザムとともにその由来を追うことにする。
・ところ変わって、ある世界。スプリンターと呼ばれる大地に多くの生物が暮らしていた。上空の白熱光から吹く風がエネルギーをもたらし、生物たちは栽培と牧畜によるささやかな社会を築いていた。
・生物たちの一人、ロイは、スプリンターの地図を研究するザックとともに、スプリンターの奇妙な重力分布を考察し、基本的な物理法則から数学を編み出し、やがてスプリンターがハブと呼ばれる点を中心として回転運動していることに気づく。そして過去に起きたスプリンターの分裂が再び起きる可能性を知り、危機を避けるためトンネルを掘ってスプリンターの軌道を変えようとする。
・ある時、放浪者と呼ばれる天体がスプリンターにぶつかり、スプリンターの軌道を大きく変えた。スプリンターは白熱光を突き抜けて脱出し、その際多くの生物が死んだ。放浪者と再び遭遇してこのような惨事を起こさないよう、生物たちはさらに物理を研究し、やがてスプリンターを安全な軌道に乗せた。
・スプリンター人は考えた。ハブに近づくのは危険だ。ハブに近づくものがいたらやめさせなければならない。そうだ。ハブに近づくものは全て、反対向きに送り返してやろう、と。

これだけの話なのだが、非常に長い。
とくにスプリンター人が重力の考察を始めて運動の法則に気づき、やがて天体を操縦する方法を覚えるまでの科学の進歩が丁寧に描かれている。
たぶんSFとしてかなりの高みにある、たぐいまれな想像力を駆使して描かれた物語なのだろう。
しかし、全体的に退屈。

また、ゼンデギを読み始めて、なぜかこちらは読みやすい。なんでだろう?と思ったのだが、おそらくそれは感情移入のしやすさのせいじゃないだろうか。
ゼンデギは、現代社会を舞台に、科学技術が社会に影響をあたえるという初期の短編めいたはなしであり、読者自身の生活からスタートして物語を読み始めることができる。
しかし、白熱光の登場人物は、
かたや、全宇宙連合での暮らしに退屈しきった電脳世界の住人。
かたや、原始農耕文明のような生活を送りながら、物理学にめざめて天体操縦までしてしまう、6本足と甲皮をもった宇宙生物
こんなん、感情移入なんて無理ですわ。。。
未知との遭遇」ならぬ、「未知と未知の遭遇」なんだもん。

とはいえ、読む価値がないなんてことは思わない。
作者と、役者の山岸さんには、いつもありがとうございますと心から言いたい。
いつか自分もこの面白さを理解できる日が来るだろうか?

あとがきにある、読者にありがちな4つの勘違いについて。
1、2は、自分は全く理解できていませんでした。
そうか。インターステラ―のガルガンチュアの特徴的な光がつまり、白熱光だったのね。
3、4は、わかってたと思う。たぶん。