メッセージ

去年、放置少女に結構課金してたんで、Google Playの映画100円レンタルチケットがまだ数枚のこっている。

期限は今年いっぱい。別にアマプラがあるから100円払ってみる必要はないんだけど、使わないのはなんだか損した気分。

なので好きなSFジャンルで面白そうな映画を探して見てみた。

メッセージ。2016年の映画。俺このころ何してたんだろう、全然存在を知らなかった。

原作はテッド・チャンの「あなたの人生の物語」。

私、これ11年前に読んでる。

今回、この映画を見るにあたって、自分の頭はベストコンディションだった。

どういうことかというと、11年前に原作を読んでいて、SF的なネタ(宇宙人の言語)ははっきりと覚えていたんだけど、ストーリーは全く忘れていた。

その結果、SFの小難しいところはすんなりと頭に入ってくるし、ストーリーは初見の感覚で最後にきっちり衝撃を受けた。

ルイーズが「私は受け入れる」と言った瞬間、いろいろな伏線が芋づる式に思い出されて、あんたの娘さん冒頭で…、から、旦那はあいつだよな、になって、そういえば旦那にひどいことを言って別れたってな、とすごいスピードで繋がっていって、気づいたらぼろぼろ泣いてた。

この小説の一番の仕掛けって、人類と宇宙人の遭遇が主題と見せかけて、実はルイーズから娘へのメッセージだった、ということだと思う。ルイーズが娘のことを想うと、旦那との出会いから娘の誕生、成長、そして死までが1枚の絵として思い浮かび、それを時間の前後に関係なく述べていった結果、叙述トリックみたいな話になってしまったけど、これがヘプタポッド流なんだぜ、っていう。宇宙船がやってきたり世界を救ったりする描写があるけど、あれらはお父さんとの馴れ初めを娘に語るために登場しただけだからね。

イーガンのSFでも同じ印象を持つんだけど、あるSFのネタがあってそれは嫌というほど詳細かつ難解に説明される。それと並行して必ず主人公がいて、主人公がSFネタの結果どう変わっていったかという点も同じくらいきっちり描かれる。とっつきにくい科学の世界のワンダーを我々の世界とつなげてくれるのが良いSFだと思う。

映画には原作になかったいくつかの要素が追加されている。まずは宇宙人の来訪の目的。原作でふわっとしているところを、映画では3000年後に地球人が我々を助けてくれるから、そのために技術を授けておくという説明がされた。また、映画の盛り上がりのためにルイーズが宇宙人と地球人の衝突を防ぐため奮闘するというストーリーが足された。中国の将軍が後からあれこれ入れ知恵するのは正直くどかったが、結果ルイーズの能力がわかりやすく説明されていると思う。

ヘプタポッド達って、おそらく全体で記憶を共有してると思う。個体が認識できるのは自分の人生だけだけど、アボットのように不死ではないわけで、3000年後の個体が2900年後の個体に「100年後ヤバい」という記憶を見せ、それを2800年後の個体が見て2700年後の個体に・・・てな具合に記憶を共有した結果、遠い未来が見えているはず。爆弾が爆発するときヘプタポッドが大量の記号を見せたけど、本来はあれ全体がヘプタポッドの「言葉」なんだよね。1個ずつ丸描いてるのはルイーズたちに理解させるため噛み砕いてくれている。

だからヘプタポッド達が接触してきたとき、彼らは3000年後に救われることを知っているし、そのためにルイーズに説明しないといけないことも知っている。他の11隻の宇宙船の奴らも「俺らあまり意味ないよな」と知っている。でも特に行動は変えない。過去未来すべてを知る者には意思なんて必要ない。ただ歯車のように決まりきったことを進めていくだけ。三つ目の鴉みたい。

ルイーズは人間の意識とヘプタポッドの意識を両方持っているから、娘の生涯が短いことを不可避として受け入れるけど、一方で人間として耐え難い悲しみを感じる。そこがいい。すごくいい。悲しみを感じるということは、旦那との愛や娘の成長の喜びもあるということだから。

2001年宇宙の旅とか、コンタクトとか、インターステラーとか、良いSF映画にある静謐さをこの映画も持っている。白い光の中でルイーズとコステロが会話するシーンは美しかった。

 

こちらのレビューがよくまとまっていると思いました。

 

2020/7/1追記

レンタル期間が残っていたのでもう一回見たけど、この映画(原作も)本当に名作だと思ったので少し補足する。

 ・メッセージとは

この映画の始まりと終わりは、「あなた」に語りかけている。「あなた」とはルイーズの娘だ。原作小説、そして映画の全体が、ルイーズから娘に語りかける「あなたの人生の物語」となっている。原作だと小説の形だが、映画だと映像を残すこともできないので伝言、手紙(メッセージ)という形になったのかな。最初は原作と同じタイトルだったのが、不評だったので変えたらしい。

・いつの話なのか

自分の意見だけど、この物語が語られたのは宇宙人が地球を去ってから娘が生まれるまでの間だと思う。映画でいうと最終盤、そして時系列で言うと中間地点。これから生まれてきて、そして死んでしまう娘に対してのメッセージ。これから辛いことがあるのはわかっているけど、それでもあなたに出会いたいから産むわ、という決意表明。

・ルイーズはいつ能力が目覚めたのか

宇宙人と接触する前のルイーズには未来を知る能力が一切ない。宇宙人と対話していく中で謎の記憶が浮かびはじめる。決定的に理解したのは爆発後のコステロとの対話からだろう。地上に戻ってきたルイーズが「夫が私の元を去った理由がわかった」と言っている。この時に、ルイーズはこれから生まれてくる娘の生涯をはじめて認識し、夫と同じように衝撃に打ちのめされている。

自分は文章を読む能力があまり高くないな。小説を読んだだけではここまで強い印象を受けなかった。映像を見せられて初めて深く理解できることが多い。そういう意味でこの映画化と監督にはとても感謝する。