そして、バトンは渡された

金曜ロードショーで見た。

原作は読んでいない。

予告編を見たときにこれはいつか見ないといけないなと思った記憶がある。なぜだか忘れたけど、なんとなくこれは俺に防御無視クリティカルで刺さると確信していた。

監督は前田哲という人。知らない人だけど、テンポの良い自然な日常を撮れる良い監督だと思う。

役者もいい役者がそろっている。監督がよくて役者もよかったら7割方名作と呼んでもいいのではないか?永野芽郁は可愛い。可愛いという文字を体現している。2020年頃やっていた親バカ青春白書というTVドラマの頃から勝手に国民的娘に認定している。大森南朋市村正親も良い。身の丈に合った善人という感じが出ている。石原さとみは前から好きじゃないがこの役には合っているように思える。相変わらず好きじゃないが。田中圭はまあいいんだけど、いねえよこんな優良物件。

みぃたん役の稲垣来泉、演技うますぎない?母親を選んだことを父親に謝るところで、開始30分もしないところでもうこっちは泣いてるんですけどどうすんのこれ?子供に両親のどちらかを選ばせるのは人の道に反する行為なんで本当にやめてください。

パーティーで男を漁っている母親が大森と結婚したあたりで、これは時系列を乱してミスリードさせる系だなと思った。そしてピアノが出てきたあたりでみぃたんが優子なのかなという考えは浮かんだ。なんで名前が違うんだろう、再婚して姉妹になるのか、あるいは優子の未来が梨花なのかな?とか思ってたがあっさり改名した。まあそこのトリックが映画の肝というわけじゃないし、ごてごて飾り立てずにあっさり消化してくれたのは良かった。

個人的に一番心に来たのは梨花が父親の手紙を送ってきたところ。手紙を止めていたのは本当に最低の行為だが、そうする気持ちはわからないこともない。この映画の後味を左右するのは梨花という、はたから見ると父親から娘を奪い取って別の父親にたらい回した人間を許せるかどうかだ。梨花は子供を持てない体だったがどうしても子供が欲しく、大森と結婚したものの仕事と体調の都合で別れざるを得ず、安心して娘を預けられる父親を探して奔走した事情を知って許せるか、いやそれでも父親から娘を奪ったことは非道だ許せないと思うか。この映画で尊いのは登場人物が梨花を欠けた部分のある人間として受け入れているところだと思う。大森は娘の親権を争って取り戻すこともできたはずだが梨花の事情を知っているので身を引いた。市村も梨花の身勝手さに付き合う必要はないのに娘を思う気持ちを汲んで手を貸している。優子は母がころころ夫を変える勝手な人間だとわかって、田中は騙されたけど善意で育ててくれていると思い、あえてお父さんと呼ばず、卒業後は家を出ようとする。

卒業のところで終わるかと思ったけどもう少し続くのは満足度が高い。やはり一度親元を離れてみないとわからないこともあるもんね。父親巡りの旅は良かったが、最後結婚式まで描くのはちょっとハッピーエンドがくどいような気がする。

この話もピングドラムにつながる部分があると思う。2022年中はどんなネタもピングドラムに絡めていく勢いよ。

梨花は子供を産めない、ある種の失われた人だった。みぃたんも実母を亡くし、大好きな実父と離れなければならない失われた子だった。この2人だけで生きていたらきっとどこかで破綻していた。少なくとも体調の悪い梨花はどこかで破綻することを悟った。だから多くの父親を巻き込んで愛情を少しずつ分けてもらうことを選んだ。それが彼女の生存戦略。良い父親に恵まれて守られた生きてきた優子はまだ自分の人生を歩き始めたばかりで、彼女自身の困難に直面するのは先だろうけど、十分なリンゴは貰っているからきっと大丈夫。