線文字Bを解読した男

イギリス人将校の父とポーランド人の母の間に生まれたヴェントリス少年は考古学の本が大好き。
ある日講演に来ていたエヴァンズ教授の洩らした言葉に14歳の少年は反応する。
線文字Bは解読されていない、とおっしゃいましたか?」
18歳で論文が雑誌に掲載されるも、考古学の道には進まず、従軍、そして建築家となる。
しかし線文字Bに対する興味やまず、専門の学者たちに手紙を送って最前線の進捗レポートをまとめたり、自らも研究を続けた。(建築の仕事もやった。)
遂に「線文字Bギリシア語である」との確信にいたった彼は、髪をぼさぼさにして走り回り、「わかったぞ」を連呼したという。
有名人となった彼は建築の分野で責任ある地位を得るが、その事業はうまくいかず、落ち込んでいたときに自動車事故で即死。34歳だった。(若っ)

図書館でふと目に入ったので読んじゃった。
去年秋ごろの本。
ヴェントリスは熱意と行動力にあふれていたが、学問の進展を願い、名誉欲といったものから縁が無いみたいだ。
要するに好きだったわけで。
線文字Bの解読は決して一人の業績ではない。エヴァンズ始め多くの先人、同時代の研究者(特に解読の前の強固な土台となった論理的分析をした女性学者*1)、そして共同研究者の刺激や協力があった。
それとしても彼は類まれなる才能の持ち主だった、という感想を持った。
(*1)アリス・コーバー。ある時線文字Bに「憑かれて」しまった彼女は世界の古言語をかたっぱしから学習し、方法論の勉強に、と化学・物理学まで勉強して研究に臨んだ。彼女は文字を分解し整理し列挙し規則性を探り、線文字Bには屈折(複数形や性による語尾変化)があるのではないかという仮説を立てた。表を使った整理方法はヴェントリスにも強い影響を与える。が、解読の2年前に死んでしまう。ヴェントリスは解読後初めての論文の謝辞に彼女の名前を入れ忘れたという。鉄のような人だったようだ。この人の印象がやたらと強くて思わず笑ってしまった。

以上、なかなか面白い、エキサイティングな本でした。
不自然なところのまるでない、空気のような良い翻訳と思いました。