最近見た夢・続・後半

バッグを持ち上げ、両手を大きく振った。
全身でアピールしなければ、谷底を爆走する大型ダンプのような車体を止めることなど不可能に思われた。
バスは短く鋭いブレーキ音を立ててとまった。
中に入ると、客は6人しか乗っていなかった。
これが3時間早ければ40ほどの座席は7割がた埋まっているはずである。
中ほどにある誰も座っていない5人がけのシートに体を預ける。
一仕事終えた充足感と、開放された安息から、大きく伸びをした。
ああーーーーー、空が黒い、、、、星がきれいだ。
そのバスは天井がなかった。
そして気がつくと、向かい側の窓枠までもが透き通り、冷たく輝く星の光が目に飛び込んできた。
ひょっとすると透明な素材でできているのかもしれないが、確かめるすべがないのならば屋根がないのと変わらないし、言ってしまえばそんなことどうでもよい。
夜空にくっきり浮かんだカシオペア座のW字は、子供のころ故郷の空に初めてオリオン座をなぞったときの興奮を呼び覚ますほど、冷たく美しかった。

翌朝、再びバスに乗る。
反対側の席に座れば、見える景色は昨日と同じだ。
しかし窓枠は容赦なく遠くの山並みを切断し、視線をあげると1.5メートル先に私の空があった。
事務所についてから、昨日の晩タイムカードを押さなかったことに気づいた。
けちな上司は決して残業を認めないだろう。
薄青のボールペンで、定時退社時刻を書き込んだ。