引き続き、プランク・ダイブ

「エキストラ」
 臓器移植用に自分のクローン(エキストラと呼ばれる)を育成するのが金持ちの間で秘かに広まり始めたころ、大胆不敵な大富豪のダニエル・グレイは100体ものエキストラをパーティで行進させて悦に入っていた。ある時ちょっとした不祥事にまきこまれたグレイは、世間の目をそらすためにあるタブーを侵すことを決める。それは自分の脳を取り出してエキストラの頭蓋にすえつける「脳移植」だった!
 数十回におよぶ秘密裏の人体実験ののち、グレイはとうとう自身の手術を決意する。麻酔を施され、目を閉じたグレイの意識は闇のなかへ。次に目を覚ました時は20代の若々しい身体が自分のものになる、はずだった。ところが・・・
 と、まあ、とくに説明する必要もないような、わかりやすい話です。イーガンの愛読者であれば「ぼくになることを」の展開を思い出すかもしれません。また一般に唯一無二と信じられている人間の意識が分割され、別々の道を歩むというネタは、データ化された人格のコピーが登場する「ディアスポラ」や「プランク・ダイブ」など後の作品に多く登場します。
 人間の意識はどこに宿るのか。その境界はどこか。アイデンティティに切り込む作家イーガンの根幹をなす典型的な物語だと思います。