パラサイト

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プライムビデオには見てない映画がまだ山ほどあるのでお金払う必要もないのだが、通常400円のレンタル料金が100円になるお得感には逆らえない。

プライムビデオのラインナップに捕らわれず、本当に観たいものが見れるのがお金を払う特権。

20年前はゲオの100円レンタルに通ってどれをみるか悩みながら厳選していたのはよい思い出。今は借りるのも返すのも家にいたまま一瞬でできる。結構なことだ。

「パラサイト 半地下の家族」は2019年の韓国映画カンヌ映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞したほか、アカデミー賞で外国語映画初の作品賞を含む4部門で受賞した事前期待度高めの作品。

東アジアの貧困家庭を描いたというと2018年の万引き家族と比べられがちだが、パラサイトの方がエンタメ寄りでメッセージ性が強い。感動で涙が出るような作品ではない。

以下の文はネタバレを含むが、この映画は事前知識がない方が良いと思うので、未視聴の人は一度虚心で観ることをオススメします。

意外と難しい感じの映画だった。

見た後にはてなマークがたくさん浮かんで、考えてもわからなかったのでもう一度最初から見た。

脱線するけど配信で映画を見るとき、うちのテレビはサラウンドに対応していないので小声の台詞がぜんぜん聞き取れないことがある。なので2回目は日本語音声+日本語字幕で見た。この映画もだいたいは聞き取れるけど、肝心な部分が小声だから字幕おすすめ。

見た後に一番気になるのは父親ギテクの行動の理由だと思うけど、なかなか難しいので、まずは映画のテクニカルな部分から。

この映画は見ているうちにどんどん作風が変わっていく変わり飴のようだ。最初は貧困家庭の生活を描くドラマとして始まり、富豪の家庭にあらゆる手で入り込むブラックコメディとなる。追い出した元家政婦が戻ってきたところはミステリーで、元家政婦の夫が包丁持って追いかけてくるところはサイコホラー感がある。夢のような惨劇の後は、ミステリーの解決編のようでもあり、感動的なラストになると思いきや現実に引き戻される。コーエン兄弟の映画を見たような後味。

朝鮮戦争の後テロが多発したため、新築住宅には避難用の地下室を作ることが義務付けられたそうだ。そこに最低限の居住設備をつけて格安で貸し出したのが一家が住んでいる半地下物件。もともと居住用ではないので何かと不便。

韓国の教育熱は高く子供のころから塾に通うのが普通。なので大学受験に4度失敗している息子ギウがこの先大学生になる見込みはかなり薄い。

家族にはそれぞれの夢がある。娘ギジョンは美大を目指すもうまくいかない。兄の友人の大学生が来た時に見せる明るい表情は、学生として青春を謳歌したい気持ちを伺わせる。息子ギウは大学生になり富豪の娘と結婚することを夢見ている。父ギテクは何度も事業に失敗しているが、成功と富豪のような生活に憧れている。

ギテクの凶行の理由は何か。

一家は口癖のように計画という言葉を使う。富豪の家へのパラサイト計画はギウとギジョンが主体的に進めていた。しかし子供たちが幼いころは父が家長として様々な計画を立て、小さな成功と失敗を繰り返してきたのだろう。

だが凶行が計画的だったとはとても思えない。大雨で半地下に住めなくなり体育館に避難した時、ギテクはギウに「絶対失敗しない計画は無計画」と語る。様々な計画を立て懸命に生きてきたギテクは、一時的にうまくいっても思わぬ理由でダメになる経験を繰り返して疲れ、あの時は無計画、成り行きや感情に任せて行動したと思われる。

あの時点でギテクには富豪を刺す合理的な理由がない。普段のギテクであれば絶対にそのような凶行は行わない。娘を失い動転した状態で、致命傷のギジョンよりも気絶した息子を優先した富豪への怒りをきっかけに、溜め込んでいた感情が爆発したように思える。

ギテクが溜め込んでいた感情は何か。

まずはいくら頑張っても成功できない自分たちの境遇への不満だろう。ピザ箱の仕事で手に入れた稼ぎは食費に消えてしまう。頭を使って勝ち取った寄生生活も思わぬところからほころびてしまう。そのうち計画を立てる気力すら失われる。

貧乏人と金持ちの間の格差もあるだろう。貧乏人が手に入れた慎ましい半地下の生活は大雨が降るだけで台無しだ。家から持ち出せるのは一人一つの大事なものだけ。ギテクはハンマー投げ選手だった妻のメダルを、ギウは友人にもらった石を、ギジョンは煙草を持ち出す。一方、豪邸に住む金持ちは大雨でキャンプに行けなかったけどPM2.5が流れていい天気だからガーデンパーティをしましょうと、いつもと変わらず陽気に生きている。

資本主義の本質も理由の一つかもしれない。富豪はガーデンパーティーでギテクにもインディアンの扮装をさせる。ギテクの嫌そうなそぶりに気づいた富豪は、週末料金を払っているのだから業務の一環としてやってくれと釘を刺す。まるで金銭を介することでマイルドにした奴隷制である。そのくせ富豪たちは料金をはずむことで寛大さを示した気でいる。一線を越えないギテクの働きぶりは好ましく思うが、人間としては下に見ている。金を払えば命令でき、報復されるなど考えもしない。

ギテクのモールス信号を受け取った息子ギウは、いつか家を手に入れ父を救い出すと決心する。大学、就職、結婚よりも大金を稼ぐことを優先したあたり、少し現実を直視するように変わったようだ。しかし悪辣さでは兄を上回るギジョンが亡き今、ギウが大金を稼げるかは疑わしい。

一方、それまで父が元気に過ごすこと、これは現実味がある。すでに元家政婦の夫が4年間地下で暮らした実績があるからだ。無計画な行動の方が案外うまくいくこともある皮肉。富豪を追い出しギウが屋敷を手に入れるところまで計画なのだろうかと初見では考えたが、もう一度見直して、ギテクはそこまで考えていないだろうと思った。

一般的な成功を勝ち取ることよりも、屋敷に住み着いたゴーストになるほうが現実味があるなんて、なんとも悲しい話だ。