北海道胆振東部地震

2018年9月6日午前3時、マグニチュード6.7の地震が北海道を襲った。
震源は千歳から南東の深さ37キロ、海ではなく陸で起きたため津波の心配はなかった。
札幌では深夜に強めの地震として体感した。
家の中の不安定なものがいくつか落ちたが、収まったと思ったのでそのまま寝た。

 

朝6時、いつものように携帯のアラームで目が覚める。
パソコンをチェックしようとすると、いつもはスリープ状態でマウスを動かすだけで起動するのに、サスペンド状態になっている。
家のメディアサーバにアクセスしようとすると接続できない。
ここで初めて、停電していることに気づいた。

 

待っていればそのうち復活するだろうと思ったが、ネットを見ると、どうも道内の発電の起点となっている発電所震源の近くでダメージを受け停止、他の発電所もすべて停止した結果、北海道全域で停電が起きているらしい。

通勤用の電車は止まっている。

信号機もついていないらしい。

どんなものか見てみたくなって、朝7時に外に出た。

 

確かに、信号機がついていない。

そして、近所のコンビニにはすでに店からはみ出す行列ができていた。

入ってみたが、カップラーメンなどがすでに棚から消えている。

今から並んでも間に合わないと思い、少し離れた別の店舗に向かった。

 

うすうすヤバいと感じ始めたので、とりあえず売れ残っていたお菓子と、1リットルパックの飲み物、そしてたんぱく質補給のためカニカマを買った。

その時点では、午前中は会社にいけないからゆっくり朝食にしようか、くらいに思っていた。

 

停電になっても、スマホでネットにつながるから大して緊迫感ないなーと思いつつ、カニカマを食う。

手が汚れたので洗おうと水道の蛇口をひねる。出ない。

電気がない。水も出ない。ガスコンロは持ってない。テレビはつかない。

スマホのバッテリーが割と生命線なことに気づいた。

 

それでも午前中には回復の兆しが見えると思っていた。

ネットのニュースを見ると、偉い人が午前中に復旧できるよう発破をかけていた。

そこまでうまくいかねーべ、と思いつつ、ネットを見ながら復旧を待った。

しかし電気は回復しなかった。

 

11時、このまま断水が続くとまずいかもしれない。

近所に給水所が開かれているらしく、水を入れる容器がいる。

少し遠い大きめのスーパーに水のタンクを探しに行ったが、入り口に長い列ができ、店の人が言うにはもう売れるものがないという。

焦った自分は、コンビニでお菓子と、何を血迷ったのか4リットルの焼酎ボトルを買う。

水の容器が欲しいのだ。飲みきれなくても、トイレのタンクに焼酎をぶち込めばいい。いざとなったら焼酎で頭を洗えば多少の消毒効果もあるだろう。今から思えばかなりアホな考えだが、その時はマジだったのだ。

 

14時。パソコンで暇つぶしをしていたが、バッテリーが切れかかったのでやめる。

暇だし、夕食でも調達するか、と外に出る。

近所のスーパーに行くと、13時で営業を終了したとの貼り紙。

コンビニも軒並み営業を終えていて、何も買えずに家に帰る。

スマホの電池は貴重だし、ネットもつながりにくくなってきた。

何もできない自分は、たまたま家にあった手回しラジオを回し始める。

 

回すだけでラジオと光源が手に入るとわかり、少し落ち着いた自分は今後のことを考える。

トイレのタンクが空では用も足せないし、さすがに明日は体を洗いたい。

捨てずに残っていた大きめのペットボトルを持って近所の給水所に向かう。

水を汲んで帰ってきて、その水で顔を洗った。残りはトイレのタンクに投入した。

念のためもう一回汲みに行き、4リットルほどの水を確保する。

 

17時、あたりは暗くなってきた。

この暗い中で、自分はろくな夕飯も食えず、お腹を空かせたまま暇を持て余して夜をやり過ごすのか。

不安な気持ちの中、ラジオはとても心の支えになった。

いつも通りに放送を続ける局の人たち。

自分よりはるかに大変な目にあっている厚真町の人たちの様子。

電気が復旧したというリスナーの報告に、そろそろ自分のところも復旧するのでは、とじりじりしながら待ち続ける。

 

17時半ころ、不意に部屋の電気がつく。

蛇口をひねると水が出る。

トイレのタンクに水がたまる音がする。

助かった!

 

19時、とりあえずシャワーを浴び、日常を取り戻す。

なんだかお腹がすいてきたので、外に出てみる。

自分ちの周りの住宅街は街灯もついているのだが、商店街の方に行くと街灯も信号機もつかない、しばらく見たことがなかったほどの真っ暗闇だった。

小学校のときの林間学校を思い出すくらいの暗闇。

おそらく夜間は商業地より住宅地に電気を優先して割り当てているのだろう。

当然店なんか開いてないので、自販機でジュースを買い、それと冷蔵庫の残り物で腹を満たす。

 

翌日、昨日行ったスーパーを見に行くと、空いていて商品もあるようだ。

昨日は売るものないと言ってたのに、、と少しもやもやするが、昨日売りつくしてしまったらさらに混乱をまねくし、店の人も家に戻りたいもんね。

とにかく、今日はまとまった食料を手に入れてやっと生きた心地がした。 

 

結局のところ、自分は何もせずただ待っていただけだったのだが。

大変な時期に職務を全うしてくれた、北電と公務員とラジオ、そして小売の人たちには感謝しかない。

6日に電気が復旧し、7日に交通機関が機能を取り戻し、8日から物流が動き出すだろうか。

都市の日常は、サプライチェーンが狂いなく動き続けることで支えられているということを、こういうときに実感する。